井上靖が熊野在住の友人に贈った詩歌が刻まれている。碑文は、直筆の詩を彫っている。その場で友人に贈ったため全集等にも記載がなく、貴重な作品。鬼ヶ城は詩「渦」でも詠まれており、小説「死と恋と波と」の舞台にもなっている。
昔熊野の鬼たちはここに集り棲んだ。 彼等は風に髮を飛ばし渦を啖い夜はよもすがら岩を揺すぶる波濤の音の中に眠った。 月明の夜より雷鳴の夜を好んだ。 二本の角は稲妻の中で生き生きとした。
―鬼ヶ城にて― 井上靖